2024年10月02日
パンケーキ食べたい

"Tanaka M13 3inch FBI"
タナカのモデルガン、M13FBIスペシャルです。
1980年代あたりに専門誌に取り上げられていたFBIスペシャルは当時のガンマニアの絶大な人気を誇っていました。
ざまざまな記事で取り上げられたFBIスペシャルの”公式設定”を取りまとめて要約すると、このような感じでした。
・FBIの私服エージェントはスーツを着用し、腰には専用リボルバーを装備している。
・制式モデルはS&W M13 3inch (ミリタリーポリス357マグナム) FBIスペシャル
・装備品による上着の膨らみを極力抑えるため、厚みの少ないパンケーキタイプのホルスターを着用し、スピードローダーは持たない。
・予備弾はスピードストリップ(ゴム製で6発収納可能)を2本を薄手の専用ベルトケース内に収納。
・カートリッジは.38スペシャル+P弾を使用。
商用雑誌記事なので、一定の取材と信頼性はあると思いますが、ネットもなく海外の情報が現在よりも圧倒的に少なかった時代のため、雑誌やライターの個性によって記事の内容には幅があったり、どうしても不明な点はあったりしました。
当時の読者たちは実際に現地に行って真実を確かめることもできないので、本当にFBIがこのような装備をしているのか真相は不明でしたが、当時はこれが公式設定として定着していたと思います。
タナカがM13のモデルガンを発売したのは最近のことではありますが、当然ながら当時の絶大な人気を意識しての製品化だと思います。
FBIスペシャルというとSFビューローモデルなどもありますが、パッと思いつくのは3インチのミリポリ、というマニアは多いのではないでしょうか。

こちらはコクサイのM10です。1983年の発売から近年まで長く生産されていたロングセラーです。
同じモデルでも大小さまざまな箇所に何度も改良が加えられたのでバリエーションは非常に多いです。
画像の個体は最終生産時期に近いモデルです。
光沢のあるABS樹脂、短いシリンダーと専用フォーシングコーン、金属製サイドプレートとなっています。
プチカスタム箇所としてカウンターボア加工を廃止し、カートリッジ装填時にリムが露出するようになっています。
M10はカウンターボアではないのですが、コクサイは先行モデルのコンバットマグナムがあったので、そのシリンダーを共用した、という事情がありました。
M13であればカウンターボアでも正しいのですが、M10として発売したい事情があったのかもしれません。
ちなみにモデルガンでカウンダーボアを無くしたい場合は溝を埋めるか、シリンダーの後部を削るか、という方法が考えられます。削る方が簡単だと思いますが、シリンダー脱落防止のフレームラグと位置が合わなくなるというデメリットもあります。
また、コクサイM10発売初期は全てメッキモデルだったので、簡単に加工できない(削るとメッキ層が無くなり地肌が露出してしまう)というハードルがありましたが、プラ地肌モデルが登場したことによって加工がしやすくなりました。

コクサイのM65です。生産初期のモデルで1983~1984年あたりの製造と思われます。
サイドプレートの分割ラインなどが改良される前のものです。
M13のステンレス版がM65となりますが、FBIスペシャルというとM65が思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。
この個体はイチローナガタ氏のコレクションと同仕様に近づけています。
氏のモデルはさらにハンマーがデホーンド加工されていました。
当時、イチロー氏といえばGunライター、フォトグラファー、シューターとして超人気で、自身のコレクション品を掲載すれば、それが一気にメジャーになるというくらいの影響力を誇っていたと思います。
その時代、コクサイが米国のイチロー氏のところに製品開発の為に直接取材に訪れた、という話はコクサイの広告などにも取り上げられ、とても有名なエピソードとなりました。
なので当時の「憧れのモデル」は「あるメーカーのある製品」、というよりは「イチロー氏のコレクションそのもの」が対象になっていた、といっても過言ではありません。
例えば、このM65はフィンガーチャンネル付きコンバットグリップがついていて、コクサイの説明イラストもイチローコレクションそのままです。(実物はサービスサイズグリップが標準)。ただこれは軽微な差なのでメーカー純正仕様もイチロー仕様も真似するのは比較的簡単です。
一方でボブチャウカスタムなどはイチロー氏の所有する実物が一点物であり、かつ氏もアップデートを重ねているので掲載時期によって仕様が違い、製品化する場合に明確な正解が無い、なんてこともあります。
この世に1丁しかない実物に対して、大量のモデルガン・エアソフトガンが作られていたりするのも何か不思議な感じではありますが、唯一無二の逸品に多くのレプリカが造られるというのは世の中によくあることなのかもしれません。

タナカのKフレームモデルガンにおいてミリタリーポリスは刻印等がリアルになったバージョン2から追加されました。
モデルアップされたのはロゴがサムピース下に入り、バレルピンとカウンターボアが省略された1982年以降の世代のものです。
タナカの方が近代的な印象だな、と思っていたら、コクサイの元モデルよりも新しいものを再現しているので当然といえば当然の話なのでした。
この個体には純正のバナナグリップを装着しています。非常に持ちやすく、バランスも良いです。
バナナグリップは1970年代後半から1980年代に多く生産されたようで、ウォールナット材やゴンカロアルベス材などの存在が確認できます。
最近は中古市場でも見かけなくなってきましたが、1990年代に玩具問屋が多数輸入していたらしく、国内流通量はそこそこあったと記憶しています。
このグリップはニューMGC新宿店があったころに購入したもので、当時はオーバーサイズが10000~15000円くらい、サービスサイズが5000~6000円くらいで販売されていました。
輸入グリップを取り付け加工したプチカスタム品みたいなものも少数販売されていたりしました。
後年に聞いた話では旭工房が昔MGCで働いてたよしみで名前を出さずに外注加工を結構引き受けていたそうです。
当時新宿店で購入したチーフスクエアカスタムが手元に残っているので、いずれ当ブログで紹介します。

コクサイもぱっと見にはタナカと変わらない感じがしますが、それはサイドプレートにトレードマーク刻印が無いからでしょうか。
金属製サイドプレートはズッシリと重くて質感も高いのですが、なぜかこの生産期のみ刻印がありません。。サムピース側にもマークは無いので、チョット寂しい感じです。
最終期に近いロットになるとサイドプレートに刻印機によるトレードマークが入ります。
樹脂製サイドプレートの時代はS&W風のコクサイロゴが入ります。金型に既に刻印が入っている感じでした。

コクサイM65 3インチの一番すごいところ。(私の偏見です)
それはバレル右側に金型による"S&W 357 MAGNUM"という刻印が入るところです。
何がすごいかというとM10 3インチの刻印は"S&W 38 SPECIAL CTG."となっているので、M10とM65ではバレル部分の金型が異なるということになります。
一般的なトイガンでは黒とシルバーのモデルがあったとしても、ほとんどは単なる「色違い」でしかありません。
もちろん細かいパーツまで黒とシルバーで作り分けるのは大変だと思いますが、金型は共用であることがほとんどです。
刻印には金型で最初から入っているものと後で彫刻機やスタンプで後入れするものがあります。
コクサイは金型に刻印が入っているので、同じ3インチでも2種類の金型が必要になるということです。
当時でも新規モデルガンの開発で金型製作に数千万が必要だったと聞いたことがありますから、コクサイの意気込みがよくわかります。

FBIスペシャルにはパンケーキ。
もちろん食べ物ではなく、このタイプのホルスターをパンケーキタイプと呼ぶのだそうです。
ベルトループより上にシリンダー部が来るようにデザインされており、通常のヒップホルスターよりも薄く、体に密着するような感じで秘匿性が高くなっています。
これはBucheimer製のホルスターでM13 3inch専用となっています。
専用とはいっても、M10やM65も使用可能です。

古くは1960年代のモデルガン創成期、MGCセンチニアルのカタログにも登場する老舗ホルスターのBucheimerですが、輸入品ゆえ高価で中々入手できるようなものではありませんでした。
最近は樹脂やナイロンのタクティカル系ホルスターが全盛であり、革の中古ホルスターは劣化も激しい場合があることから、お手頃な中古の出物をたまに見かけることがあります。
コクサイM10発売当時、オプション品としてコクサイ純正ホルスターが数多く準備されている中にパンケーキホルスターもありました。
ただ、コクサイのパンケーキタイプは4インチ用のみ。3インチだとチョット余る感じでしたが、とても良くできており、かつ価格も輸入ホルスターの半額以下だったかと思います。
Gun誌かコンバット誌か忘れましたが、ホルスター先端をカットして3インチ用にカスタマイズするという記事が紹介されており、マネして切ってしまった方も多いのではないでしょうか。
私は発売当時は買えなかったのですが、3インチにカットしたコクサイパンケーキを中古入手した記憶があります。
ただ、JACにはよく行っていたので、ショーケースの本物ホルスターをよく眺めていました。当然見るだけです。
でもゴム製ローダーのスピードストリップは確か1000円前後と安く、かろうじて購入できました。
よろこんでFBI式リロードを楽しんでいましたが、何年かした後に久々に使おうとしたら、ゴムが劣化してバラバラになってしまい、泣く泣く捨てました。。。
JACは高級店でしたが、私のような貧乏な子供が行っても追い出されることはありませんでしたね。
当時買えたのはパックマイヤーのゴムのグリップアダプター、ビアンキのゴムのスピードストリップ、革のガバ用マガジンバンパー、とかそんな感じです。
なんか金属どころかプラでもない用品ばかりでしたね。。ただ、ダミーカートは1発単位で買えたので、時間を掛けてちょっとずつ買いました。
JACのダミーカートはプライマー風の金属が接着されていたのと、ショットシェルとかワッドカッターとか珍しいブレットがあったので、すごい個性的でした。

さて、最後にフロントサイトの形状の違いについて。
タナカとコクサイでは土台の有無という、けっこうな形状の違いがありますが、実物は両方のタイプが存在します。
よって、コクサイは1983年発売なので、その頃に取材したもの、タナカはもっと後の世代という解釈で差し支えないと思います。
私はどっちの世代もカッコ良いと思っているので、両方とも大切に持ち続けたい、と思っています。
タナカは現行モデルなので部品購入や修理などがしやすい、というメリットがありますし、コクサイは山のように中古が流通しているので、いざとなれば部品取りを調達すれば良いのです。
前述のようにコクサイはイチローコレクションをしっかりと取材・採寸しているので、モデルガンとしての制約や製造工法におけるアレンジ・デフォルメはあると思いますが、当時としてはかなりリアルな製品だったと思います。
実物グリップも無加工で取り付けられるものが多く、その後の他社製品にも影響を与えた傑作ではないでしょうか。
ちなみにタナカはエアソフトガン初期(ペガサス以前のカート式ガスガン)でもFBIスペシャルを製品化していたことから、メーカーとしてもかなり思い入れがあるモデルなのかなーと勝手に思っています。
おそらく、モデルガン趣味の各世代の気持ちをよく理解してもらってるので、今後もどんなバリエーション展開があるのか、すごく期待してしまいますね。
最近はグリップアダプターとかアクセサリーも充実してきているので、スピードストリップを作ってくれないかなーと思っています。
** MGCMC BONDCHOP
http://mgcmc.blue.coocan.jp/
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